NZ・クライストチャーチの地震に学ぶ(11/3)

APLAの皆さん、こんにちは。

私どもは、今、新しく作った減災連携研究センターを軌道に乗せるため、色々活動中です。減災連携センターのことにつきましては、3月26日の午後に名古屋 大学のIB電子情報館大講義室で開催する減災連携シンポジウムで、お披露目をする予定をしておりますので、是非、奮ってご参加ください。当日は、センター 設立の趣旨や組織の概要、今後の活動方針などについてご報告すると共に、内閣府防災担当の越智参事官、文部科学省地震防災研究課の鈴木課長、愛知県防災局 の中野局長、海洋研究開発機構の金田リーダー、防災科学技術研究所の藤原リーダー、中部電力の服部部長、東邦ガスの笠井部長、NHKの山口アナなどにもご 参加頂き、今後の防災研究や連携の在り方、センターへの期待と苦言など、お話しいただく予定でおります。シンポジウムの後には懇親会も予定しています。

さて、今回は、2月22日にニュージーランド・クライストチャーチを襲った地震について考えてみたいと思います。
ニュージーランドは日本と同じようにプレート境界に位置する島国です。ここでは、インド・オーストラリアプレートと太平洋プレートが接していて、ニュー ジーランドの真ん中を南北に大断層が走っています。北島では島の東側で太平洋プレートがオーストラリアプレートの下に潜り込み、南島では逆に島の西側で オーストラリアプレートが太平洋プレートの下に潜り込んでいるそうです。

今回地震被害が発生したクライストチャーチは、この大断層から東に離れた場所に位置し、カンタベリー平野というところにあります。このため、従来は、クラ イストチャーチは、あまり地震が起こらない地域と考えられていたようです。耐震性の無い煉瓦造の建物が立ち並ぶ古くからの町並みが維持されていたのもうな ずけます。
今回の地震では、堆積層の下に隠れていた活断層が活動したと見られています。この断層の地震発生間隔は1万4000年以上という報告もあります。マグニ チュードは6.3と余り大きな地震ではありませんが、震源が5kmと浅く、かつ、クライストチャーチのごく近傍で起きたため、強い揺れが直接クライスト チャーチの町を襲ったようです。昨年9月に発生したダークフィルド地震(Mw,7.1)の震源域の東端がずれ動いたとも言われています。

日本人留学生が通っていたキングスエデュケーションのあったCTVビルは、9月の地震で構造的な被害が出ていたという報道もされています。この建物は、壁 で囲われたエレベーターホールが建物の隅の位置にあり、柱が細く、柱間隔も大きく、壁が不足したりしていたことなどが指摘されています。柱ばかりで、袖壁 や腰壁・垂壁がなく、壁が偏った位置にあると、建物全体が壁のあるところを中心に捩れ、壁とは反対側の柱が大きく変形し、上からの重さに耐えかねてドミノ 倒しのようになって、隙間無くパンケーキ状に倒壊してしまいます。

キングスエデュケーションのように、人が集まる建物が倒壊すると多くの犠牲者を出すことが分かります。また、言葉が不自由な外国人にとっては、災害時には苦労が多いことも見てとれました。

町の中では、大きく倒壊した大聖堂を始め、煉瓦でできた建築物が大きな被害を受けていたようです。一般に煉瓦造の建物は重さを支えるのは得意ですが、地震のように横からの力は苦手です。

そもそも、クライストチャーチの町は、エイボン川沿いに広がる沼地を19世紀に埋め立てて作った町のようです。このため、地盤が軟弱で、それが揺れを大き くしたと考えられます。さらに、砂でできた地盤が泥水のようになってしまう液状化現象も広い地域で発生したようです。中には吹き出した土が50cmも積 もっていて、車両が土に埋まっている様子も報道されていました。

こういったクライストチャーチでの様子は、私たちの地域に当てはめてみると多くの教訓が得られます。是非、ニュージーランドでの被害に学んで、私たちのまちをより安全にしていきたいと思います。

まず、今回の地震は、1945年1月13日に発生した三河地震(M6.8)に似ていることに気がつきます。三河地震を起こした深溝断層の活動間隔 は約2万~3万年とされていて、それまでは活断層の存在が分かっていなかった場所です。この地震は、1944年12月7日に発生した東南海地震 (M7.9)の直後に発生しました。町の直下の活断層の地震だったこと、戦時下でもあり、東南海地震で被害を受けて弱っていた建物を修理する前に地震が 襲ったことなどのため、多くの建物が倒壊しました。特に蒲郡の形原や安城などで大きな被害を出しました。地震規模が遙かに大きい東南海地震に比べ、2~3 倍の犠牲者を出してしまいました。

マグニチュード6クラスの地震は日本では毎月のように起こっています。日本の場合、マグニチュード8クラスの地震は10~20年に1つ程度、7クラスの地 震は1~2年に1つ程度、6クラスの地震は1~2ヶ月に1つ程度発生しているように思います。一般にマグニチュード6クラスの地震では地表には断層が現れ ないので、活断層の存在が分かっていない場所で発生する可能性が高いと思われます。特に、名古屋市西部のように沖積地盤で覆われている場所では、活断層の 存在は良く分かっていません。堀川の下や鶴舞の下などには、推定断層の存在も指摘されているようですから、名古屋でもクライストチャーチと同様、直下でマ グニチュード6クラスの地震が発生する可能性は否定はできないと思います。

揺れの強さは、地震の規模、震源からの距離、地盤の硬軟、によって変わります。地震規模が小さくても、震源域からの距離が近く、地盤が軟弱だと強い揺れと なります。堀川の西に広がる沖積低地には、江戸時代までは葦原が広がっていましたので、クライストチャーチと同じように強い揺れに見舞われる危険性は十分 にあります。

こういった地域では、液状化の危険性も高くなります。液状化をすると、建物に作用する揺れは一般に小さくなるので、建物そのもののダメージは減ります。し かし、建物の基礎周りの被害が増えてきます。また、液状化によって地下のライフラインが被害を受けたり、泥水などで車両の通行が困難になったりし、災害発 生後の消火・救急救命などの対応が困難になることも予想されます。

煉瓦造の建物については、当地でも120年前に発生した濃尾地震のときに大きな被害を出しました。地震とは無縁の西洋から導入した煉瓦造の西洋建築物の多 くが1891年濃尾地震や1923年関東地震で倒壊し、その後、我が国の耐震工学の研究が始まりました。当地の場合、すでに濃尾地震や東南海地震で耐震性 の不足する煉瓦造の多くが壊れているため、同様の被害は起きにくいと考えられています。

また、CTVビルと同様に、壁が不足する建物や、壁が偏在しているバランスの悪い建物が散見されます。昔と比べると、ガラスだらけで壁が少ない建物が多い ことは少し気になっています。やはり、「強無くして用無し、用無くして美無し」とう建築の基本に立ち返って、耐震的な建物にしておきたいと思います。

耐震診断を通して、耐震性が不足する建物を早期に見つけ、適切に耐震補強をしなければいけません。また、学校や病院のように多くの人が集まる建物は通常の 建物以上に耐震性を増しておくことの大事です。当地の場合、学校や防災拠点の耐震化は全国的にももっとも進んでいると思いますが、医療施設の耐震化は相当 に遅れていますので、早期の耐震改修が望まれます。

また、当地には、日本語が不得手な外国人が沢山居住しています。彼らはある意味では災害弱者とも言えます。普段からのコミュニケーションや語学ボランティ アの大事さが良く分かります。また、医療や救助の力の不足は当地も全く同様です。大きな災害時には平時の医療や消防の力では全く足りません。少しでも未然 に災害を防ぐ努力をする必要があります。
一般に大きな地震災害では、人口の0.1%程度の方が犠牲になるようです。今回の地震はM6.3と比較的小規模の地震でしたから、30万人の町で 200~300人の方が犠牲になったようです。300万人程度が居住している阪神地区では6000千人余りの犠牲者を出しました。今後私たちが経験する東 海・東南海・南海地震では数千万人の国民が被災します。そうすれば数万人の犠牲者となるでしょう。クライストチャーチの100倍規模の災害となります。そ のとき、我が国がどのようになるか容易に想像できると思います。

確実に巨大地震を経験する未来の子供たちを不幸にしないため、今こそ、私たちが災害被害軽減のために頑張るときだと思います。備えないことが恥ずかしいと 思う国にしなくてはいけません。そのために、多くの人たちを啓発する必要があります。そのリーダーが、APLAの皆さんです。どうぞ、これからも宜しくお 願いします。