私たちの社会の実力:消防・救命力(08/12)

皆様、明けましておめでとうございます。お元気でお過ごしですか。皆様にとって新しい年が、災いが無く、素晴らしい年となることを祈念いたします。さて、この原稿は、東南海地震から64周年となる年末の12月7日に書いています。

1944年12月7日に発生した東南海地震は、11月24日の東京空襲を受けて、翌8日の太平洋戦争開戦記念日に名古屋の初空襲があるとの情報 が寄せられる中、防空壕の準備をしている最中に起こりました。お昼時13時半頃に起きた地震で、わが国の航空機産業の拠点である半田の中島飛行機山方工場 や、南区道徳の三菱重工名古屋航空機製作所道徳工場などが倒壊しました。両工場では多くの犠牲者を出し、特に、学徒動員されていた若い命が奪われたことは 残念でなりません。ただ、当時は空襲への訓練も行われていたため、地震後の救出活動は速やかに行われただろうと思います。軍は戦意が喪失することを恐れ、 厳しい情報統制をし、震災の情報は伏せられました。しかし、米国では地震観測によって日本で関東地震を凌ぐ巨大地震があったことが察知され、当日のニュー ヨークタイムスやワシントンポストに大々的に地震のことが報じられています。厳しい情報統制と、若者が出征していたことなどから、後世にこの地震のことが 十分に伝えられていないことが残念でなりません。

さて、この地震の1週間後の12月13日にはB29爆撃機90機が三菱発動機の大幸工場を空爆しました。同日には東洋一の動物園であった東山動 物園の猛獣が治安維持のため射殺されています。以後、大幸工場は6回の空爆を受け壊滅します。さらに、1ヶ月後の翌年1月13日には深溝断層を震源とする 三河地震が発生しています。

12月13日の空襲をきっかけに、全部で63回の空爆が名古屋を襲い、死者8630名、負傷者11164名、罹災者52万3千名を出し、名古屋 は焦土と化しました。中でも、1945年3月12日の名古屋大空襲では、B29・288機が空爆をし、名古屋は5%を焼失、死者602名、負傷者1238 名、全焼2万9千戸に及びました。さらに、3月19日の空爆では、死者1037名、負傷者2813名、焼失3万6千戸の被害を出しています。その後、5月 14日の空爆では、B29・480機が名古屋を襲い、死者338人、負傷者783人、焼失家屋21905戸を出すと共に、名古屋城も焼失しました。さら に、6月9日の熱田空襲では、愛知航空機が空爆され、死者2068名、負傷者1944名を出しています。このように、戦時下に、2つの地震と度重なる空爆 を受け、名古屋は壊滅しました。その後、100m道路建設や土地区画整理事業を始めとする都市計画により、名古屋は稀にみる整然とした都市になりました。

 

さて、今回は、名古屋が持っている救命・救急力について見てみましょう。名古屋市の消防局は、4部1校7課3室1所2隊40係のほか、各区に 16の消防署と44の出張所を持っていて、職員総数は約2300人、そのうち交替制勤務員が約1700名だそうです。実際には2交替で勤務し、休日もあり ますから、普段は600名程度の消防士さんが働いていることになります。救急隊は33隊、消防車・救急車計約240台、消防艇3隻、ヘリコプター2機を有 しています。消防車は135台、消防団可搬式ポンプは446台で、消防隊は65隊だそうです。また、119番通報の回線数は16回線で、常時は10台稼動 していて、13名が従事しているそうです。これだけの要員と機材で、平成14年には、火災件数1,297、救急出動87,187をこなしています。すなわ ち、1日に3~4件の火災と250件の救急出動をこなしています。

愛知県が実施した地震被害予測結果では、東海地震と東南海地震が同時発生したときには、名古屋市内で、全壊棟数21,000程度、半壊棟数 59,000程度、出火件数260程度、焼失棟数6,200程度、死者数420人程度、負傷者数21,000人程度と予想されていますので、地震発生後の 救命・救急や消火を既存の消防力で対応することは明らかに不可能です。

縁起でもないことですが、名古屋市でお亡くなりになる方は、一日平均で約50人、そして、八事斎場の火葬炉の数は46基、火力源は天然ガスです。こちらの方にも限界があることが分かります。

それでは、医療の力はどうでしょう。740万人ほど居る愛知県には、医師は約13,000人居ます。病院と診療所に大体2対1の割合で勤務をし ているようです。そのうち、災害時に怪我などの外科治療をしてくれる外科医は約1,600人です。何と人口5,000人に1人の割合です。ちなみに、 220万人強が住む名古屋市に限定すると、医師5,700人と外科医650人ですから、都心部の方が医療の力が大きいことがわかります。

一方、看護士さんの人数は、正規・非常勤・派遣を含めて約40,000人です。医者は概ね500人に1人、看護士さんは200人に1人程度とい うことになります。普段の患者さんは1日当たり、入院患者が60,000人程度、外来患者が40万人程度のようです。従って、医師1人当たり、毎日30人 以上の患者さんを見ていることになります。また、愛知県下の病院や診療所にあるベッドの総数は約75,000で、そのうち、15,000程度のベッドが空 いているようです。

愛知県による東海地震と東南海地震が同時発生したとき地震被害予測結果では、全県下での死者数2,400,人程度、負傷者数66,000人程度と推定されていますので、この医師・看護士・ベッドの数では、量的に不足することが良く分かります。

このように、平時に私たちが持っている対応力では、来るべき東海・東南海地震での被害に対して十分な対応ができないことが明らかです。すなわ ち、今しなければいけないことは、被害を減らすことです。皆さんの力で、より多くの県民を啓発し、耐震化や家具固定などの事前の備えを進めることが最も重 要なことです。