緊急地震速報(07/10)

皆さん、こんにちは。お元気にお過ごしですか。7月16日に、中越地方で大きな地震がありました。高齢者の方を中心に、多くの方が犠牲になりました。謹んでお悔やみを申し上げます。

この地震でも、過去の地震と同様、旧河道や地盤条件の悪い場所での被害の大きさ、耐震性の不足する家屋の倒壊、室内の家具の転倒危険などの問題 が露呈しました。私たち日本人は、よほど懲りないのでしょうか。3年前の中越地震のとき、「よい地盤に、強い家を作り、家具を固定する」という3原則の大 事さを、十分に知らしめられたはずなのに残念です。私たちは、このこと、他人事としてではなく、我がことと受け止め、多くの方々を備えの行動に導くことが 必要です。

この地震では、新しく3つのことがクローズアップされました。一つ目は、お隣で地震が起きても、再び大きな地震が発生する。油断禁物ですね。二 つ目は、原子力発電施設の建物の耐震性と危機管理能力の問題です。発電施設の建物被害は軽微に収まりましたが、機器の損傷や人間の対応に問題が残りまし た。また、エネルギー供給の危機の問題もクローズアップされました。電気は私たちの生活になくてはならないものです。原子力だけでなく、火力発電所も含め て、電力の安定供給がされることが大いに望まれます。三つ目は、緊急地震速報の限界と有効性です。緊急地震速報については、後ほど紹介しますが、震源に近 い場所では、速報は揺れに間に合いませんでしたが、震源から離れたまちでは、緊急地震速報によって建設工事を止めたり、列車を自動停止することができまし た。

この緊急地震速報、来る10月1日に本格デビューをします。第10回のAPLA通信でも、ナウキャスト地震情報としてご紹介しましたが、今回 は、本格運用の直前ですから、緊急地震速報について、その原理を簡単にご紹介することにします。緊急地震速報は、気象庁が、震源に近い観測点で得られた地 震波を用いて、震源位置、地震の規模及び各地の震度を短時間で推定し、主要動(地震による大きな揺れ)が到達する前に利用者一般住民にこれらの情報を提供 しようとするものです。

地震発生後、揺れの到達前に警報を発するという地震警報システムのアイデアを実用化した最初の例は、鉄道総合技術研究所が開発した「ユレダス (UrEDAS)」です。ユレダスは、1980年代初頭から開発が進められ、1992年の「のぞみ」運行時から東海道新幹線で全面稼動しています。おかげ で、安心して新幹線に乗っていることができます。

地震防災対策の基本は、「揺れの小さな良い地盤に、頑丈な家屋を建て、室内の安全対策を図る」ことにあることに変化はありません。ですが、建物 の耐震化には相当の時間がかかります。このため、人命を守る手段の一つとして、緊急地震速報に期待が寄せられています。強い揺れが到達する前に、身の安全 を確保する退避行動や人命を左右する機器の停止処置をとることができれば、人的被害を大幅に軽減したり、事業などを早期に回復することが可能となります。

緊急地震速報の原理は以下の通りです。地震が発生すると、震源から2つの波が発せられます。一つはカタカタと揺れる初期微動のP波、もう一つは ユサユサと大きく揺れる主要動のS波です。地岩盤の中を伝わるスピードは、P波が秒速7キロメートル程度、S波が秒速4キロメートル程度と、P波の方がS 波より早く伝わります。緊急地震速報では、震源に近い観測点でこのP波を捉え、これから直ちに震源の位置、地震の規模(マグニチュード)、各地の揺れの強 さ(震度)を推定し、これを迅速に情報提供することで、揺れが届く前に大地震が起こったことを知らせる情報です。

例えば、震源から35キロの場所に観測点があれば、地震発生後、5秒程度でP波を検知できます。震源から100キロ(40キロ)離れた場所で は、S波が到達するのは25秒(10秒)後ですから、20秒(5秒)程度の時間差があります。この時間差から、震源を推定したり震度を予測する処理や通信 にかかる数秒の時間を除いた時間が、各地点での猶予時間となります。利用者が、この短い猶予時間の中で、身の安全を図るなどの対策を適切に講ずることがで きれば、地震による被害を大幅に軽減できる可能性があります。ただし、ここで示しましたように、揺れの大きい、震源に近い場所では、猶予時間が短くなりま す。

最初の情報は、1点のみで観測されたデータから震源や震度を予測したものです。このためその精度は余り高くありません。その後、時間の経過とと もに複数の観測点での地震動を利用できるので、震源及びマグニチュードの推定精度が向上し、情報が逐次更新されていきます。すなわち、時間が経過するほど 推定精度は向上し、一方で猶予時間が減少して、情報の有効性は低くなるという、悩ましい関係があります。緊急地震速報のこのような特徴を前提に、推定精度 を勘案しつつ、初期段階の速報をいかに活用するかが、地震災害軽減に向けての鍵となっています。

この10月1日から提供が始まる一般向けの情報は、テレビや防災無線等を介して提供されます。一般向け提供では、確実な情報であること、分かり やすく簡潔な情報であることを重視して、地震波が2点以上の観測点で観測され、最大震度が5弱以上と推定された場合に、原則として一つの地震に対し一回だ け発表されることになっています。テレビ等を通した情報提供では、まず、緊急地震速報が発信された旨を通知し、次いで『震央地名』を伝え、さらに強い揺れ の地域を『都府県名もしくは地方名』で伝えます。従って、揺れの強さや猶予時間に関する情報は含まれていません。

緊急地震速報はその性格上、幾つかの技術的限界があります。まず一つ目の問題点は、震源に近い場所では、情報提供が主要動の到達に間に合わない 可能性が高いことです。二つ目の問題点は、精度の問題です。地震発生直後の情報を用いるため、十分な精度がありません。震度の推定誤差が±1程度ありま す。また、東海・東南海・南海地震等の震源域が広大な巨大地震に対しては、初期の段階で正確な震源域や地震の規模を推定することができません。これらの技 術的課題に加え、広報・啓発や、利用者の理解度の問題もあります。最近の調査結果によると、緊急地震速報の名前を知っている人は35%、概ね聞いたことが ある人を合せて84%です。また、その内容を正確に理解している人は回答者全体の33%に留まっています。まだ、直前予知や震度速報と誤解している人が多 ようです。防災リーダーの皆さんも、できるだけ正しい情報を皆さんにお伝えください。その際に便利な「心得」が、作られています。

気象庁では、緊急地震速報の適切な利用のため、利用の「心得」を策定しました。その基本は、「周囲の状況に応じて、あわてずに、まず身の安全を 確保する」、ことです。緊急地震速報は、地震が発生してから強い揺れが襲来するまでのごく短い時間を活用して、地震による被害を軽減しようとする情報で す。震源直近の揺れが強烈で、家屋倒壊危険度の高い場所では情報が間に合わない可能性が高いのが現状です。また、一般向けの情報では、推定震度や猶予時間 に関する情報は含まれていません。このため、建物の中から屋外へ避難するようなことは困難です。また、慌てて行動することによる怪我などの危険性も懸念さ れます。

ただし、この心得は、事前に、建物に耐震補強や家具の転倒防止などの措置が行われていることが前提になっていることに注意してください。緊急地 震速報の話題をきっかけに、備えの大事さを訴えていくことがとても大切です。基本になるのが、地震に対する高い意識です。一人一人が、地震時に身の回りで 発生することについて十分な想像力を持つことが基本です。それが、緊急地震速報の適切な利用を促進することになり、加えて、緊急地震速報活用の前提となる 家屋の耐震化や室内の家具・什器の転倒防止家具などの事前の備えを促進することにも繋がります。

このすばらしい情報を最大限活用するために、日頃の備えをいっそう進めましょう。