過去と今の建物を比較する(07/5)

皆さん、こんにちは。今日は建物の話をしてみたいと思います。この原稿は、ルーマニア・ブカレストで書いています。百合草さんから、ブカレスト 滞在中に原稿依頼がやってきました。ルーマニアは日本と同様、近い将来に必ず地震がある場所のようです。有る方の研究によると、2007年2月前後に地震 が起きるという予測になっています。こんなタイミングでブカレストを訪問するのは、ちょっと気が重かったのですが、当地での耐震化の促進をするようにとの 指示が下り、2週間の防災啓発行脚を続けています。5年前から、JICA(独立行政法人国際協力機構)プロジェクトとして、我が国のお金でルーマニアの耐 震化促進のための共同研究が行われています。共産党のチャウシェスクの時代に大量に作った都市住民向けの中高層集合住宅の耐震性に問題があり、早期にこれ らを耐震補強するための共同研究プロジェクトです。
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紙ぶるるとストローハウスに興じるブカレストの子どもたち

日本からは、地震動の予測や、耐震基準の作成、耐震改修工法の技術移転などを実施していますが、当地の意識が高まらないことから、昨年から啓発 育成・防災教育に力を入れるようになりました。このため、昨年・今年と2週間ずつ、啓発のために私が短期専門家として派遣されています。こちらにも、「ぶ るる」がフルセット用意してあって、大きなワゴン車に積んで、あちこちの小中学校、高等学校、大学、市民ホールなどに出かけて、講演・啓発活動を続けてい ます。ルーマニア国内のあちこちを訪ねるので、ついでに、観光気分も味わえます。首都ブカレスト市内は、如何にも耐震性が無さそうな、築30年を越える 10階建て程度の建物が多くあります。これらの建物は、1977年の地震で甚大な被害を受けました。一方で、郊外に行くと田園の中に1~2階建ての建物が 数多く残っています。また、震源の近くのシナイアやブラショフには、中世以降、19世紀頃までの建物も沢山残っています。これらの昔ながらの建物は、繰り 返し経験した地震でも、現代にまで残ってきているようです。
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左からブカレスト市内の集合住宅、ブラショフの町並み、シビウの町並み
同じようなことは、我が国でも良く見かけます。最近建ったばかりの建物が酷く被害を受けているのに、昔ながらの町並みが残っている様子は、このところの 地震でも良く経験します。ということで、そろそろ、本題に入りましょう。「防災よもやま話⑮過去と今の防災力を比較する」の中で、戦前と今の建物の違いと して、①住宅密集度、②住宅の構造、③寝室の場所、④家具の量、⑤建物の規模の5点を上げました。

戦前の家屋は現代とは随分異なります。市街地を除けば家屋は密集して建っておらず、多くは平屋建ての小規模な建物で、屋根は板葺きや草葺きが多 く、室内には家具は殆ど有りませんでした。平屋で板・草葺きであれば、家屋に作用する地震力は今の建物に比べれば遙かに小さいです。このため、建物は傾い ても完全に倒壊する建物は意外と少なかったのではないかと思います。前回にお話ししたように、戦前の建物は良い地盤に建っている場合が多いので、揺れも軟 弱な地盤に広がった今の町よりは揺れが小さかったと思われます。そして、平屋なので、部屋の揺れは地盤の揺れと同じです。そして、ほとんど家具がありませ んでしたから、家具の下敷きになった人もほとんど居なかったでしょう。たとえ家屋が倒壊しても、平屋であれば屋根を取り除くだけで、人の救出が可能です。 しかも、当時の建物は比較的小さな建物でしたから、一つの建物内で同時に大量の人が生き埋めになることも少なかったと思います(半田の中島飛行機などの工 場では大量の犠牲者がでましたが・・)。さらに、隣の家の人は、どこに家族が居るかを大体知っていましたから、ピンポイントで救出もできたでしょう。です から、消防の手を借りずに、周辺住民だけで互いに救出活動ができたと思います。家屋が密集していなければ、延焼火災の危険度も小さかったと思われます。

これに対し、現在は2~3階建ての戸建て住宅が軒を連ねて建っています。寝室や子供部屋の多くは2階以上にあり、多数の家具に囲まれている。大 都市では中高層や超高層の集合住宅に居住する住民も多くいます。低層の建物に比べ高層の建物の耐震余裕度は相対的に小さいと思われます。また、高層階は一 般に地面に比べ強く揺れます。そして、揺れる高層階で家具に囲まれた生活をしています。
さて、皆さんは戦前と今とどちらが安全だと思いますか? いくら頼りになる消防士さんが沢山居るといってもその数は限られます。私は、現代社会の災害対応力には、余り自信がありません。ですから、我が家だけは万全の備えをしておきたいと思っています。