鉄筋コンクリート構造とは(06/1)

2006年1月

今回は、地震予知、のお話をする予定でしたが、社会で、耐震強度偽装の話題が毎日のように語られているので、鉄筋コンクリートのお話をしたいと 思います。本来は、立場上、耐震強度偽装問題そのものについてお話をするべきかもしれませんが、今は、種々、渦中にあるため、落ち着いたところでお話をし たいと思っています。いずれにせよ、同じ建築構造技術者として忸怩たるものがあり、私自身でこの状況を変えるように精一杯の努力をしている状況です。まず は、今回は、良く話題に上っている鉄筋コンクリート構造とはどんなものかについてご紹介したいと思います。なお、鉄筋コンクリート構造を理解して頂くため に簡単な実験道具も作っています。東海テレビのスーパーサタデーや、NHKの週間こどもニュースなどでご覧になった方もいらっしゃるかも知れません。さ て、本題に移ります。

私たちが普段使っている建物の構造材料には、木、鉄、コンクリートなどが使われています。昔ながらの戸建て住宅は木造が多く、低層の工場や超高 層の事務所ビルでは鉄骨造が使われます。これに対し、町中に多い数階建てから十数階建てのマンション・事務所ビル・ホテルなどでは鉄筋コンクリート造が採 用されることが多いようです。耐震強度偽装問題で話題になっているのは、鉄筋コンクリート造です。英語では、Reinforced Concreteと言い、我が国ではRCと略して使うことが多いです。直訳すれば、補強されたコンクリートで、補強しているのが鉄筋です。良く、皆さんは 「鉄筋」と略して呼んでいますね。そのため、RCのことを、鉄骨と混同されている方が多いようです。鉄骨と鉄筋は、同じ「鉄」で紛らわしいですが、鉄骨は 鉄骨造を意味し、鉄筋と言えば鉄筋コンクリート造を意味します。

さて、鉄筋コンクリートとは、その名の通り、鉄筋とコンクリートを使った材料です。鉄筋コンクリートは、19世紀半ばに発明され、1854年パ リ万博で、ジョセフ・ランボーが鉄筋コンクリート製ボートを出展したことが始まりです。コンクリートは、セメントに砂や砂利を混ぜて、水を加えて、水和反 応で固めたもので、ローマ時代から使われています。砂や砂利はガサ増やしのために混ぜているようです。ちなみに、モルタルはセメントに砂を混ぜたもので す。セメントは石灰岩を潰して作りますが、そもそも石灰岩は、プレート運動で形成されたものです。海の中の生物の死骸が海底に溜まり、プレート運動によっ て、死骸を一杯溜めた海のプレートが日本列島に到達します。そして、海のプレートが陸のプレートの下に潜り込むときに、海のゴミである死骸の塊が、掻き出 されるように陸のプレートにくっついてできたのが付加帯です。したがって付加帯の中には、プレートの底に溜まった生物の死骸が固まってできた石灰岩が存在 します。これを潰してできるのがセメントです。セメントは水を加えると水和反応で固まります。セメントに砂を混ぜるとモルタル、さらに砂利を加えるとコン クリート、そして鉄筋を組み合わせると鉄筋コンクリートになります。地震発生の元凶のプレート運動が作り出したコンクリートが、地震の揺れで壊れる建物の 材料と言うのは不思議な気がします。

さて、何故、鉄筋とコンクリートを一緒に使うようになったかご存じですか。そもそも、コンクリートというのは、押す力=圧縮力には滅法強い材料 です。1cm2に200kg程度の力を加えても壊れません。サイコロの上に、大人の人間が3人のっても壊れません。コンクリートの比重は2.3g/cm3 ですから、縦に1km積み重ねることができることになります。一方で、引く力=引張力には、とても弱い材料で、すぐに壊れてしまいます。一方で、鉄は、引 張力にはコンクリートの10倍位強いのですが、細長い鉄は、押すと、グニャッと曲がってしまいます(座屈と言います)。コンクリートの中に細長い鉄=鉄筋 を挿入することで、鉄は座屈しにくくります。その上、圧縮にはコンクリートが抵抗し、引張には鉄が抵抗できるようになります。さらに、具合の良いことに、 コンクリートと鉄の膨張率はほぼ等しいので、温度変化があっても一緒に伸び縮みができます。また、鉄は、空気中では直ぐに錆びてしまいますが、アルカリ性 のコンクリートの中では錆が発生しにくくなります。このように鉄とコンクリートは互いの長所と欠点を互いに補い合うとても相性の良い材料です。これに加 え、我が国は、プレート境界に位置するため、とても沢山の石灰岩があること、建設会社にとっては、コンクリートでものを作ることが利潤に繋がること、など から、鉄筋コンクリートで建物を造ることがとても重宝がられています。ちなみに、鉄筋コンクリートは、木や鉄に比べると、強度に関する性能は随分低いので すが、強度が低い故に沢山の材料を使うため、揺れにくく、遮音性があり、外気の温度変化に対する抵抗力も大きいというメリットがあります。このため、集合 住宅やホテルなどでは、鉄筋コンクリート造が良く採用されるようです。

鉄筋コンクリートの中に埋め込まれている鉄筋は、かご状になっています。これを私たちは鉄筋かごと言います。型枠の中に鉄筋かごを挿入し、その 中に生コンクリートを流し込みます。鉄筋かごのなかの長手方向にあるのを主筋と、帯状に有るものを帯筋・あばら筋・フープ筋などと呼びます。主筋は引っ張 りの力に抵抗するために使われています。帯筋は柱であれば横方向の力に対して抵抗すると共に、まるで、桶のたがのように中のコンクリートがはらみ出すのを 防ぐ働きをしてくれます。主筋と帯筋がコンクリートと仲良くすることで安全な建物ができあがっています。帯筋の大事さに気づいたのは十勝沖地震以降で、 1971年以降の建物では、十分な量の帯筋が使われています。

今、話題の耐震強度偽装問題では、圧縮に抵抗するコンクリートの断面が不足すると共に、鉄筋の主筋が十分では無いことが問題になっているようです。