ナウキャスト地震情報(05/11)

2005年11月

「ナウキャスト地震情報」、聞き慣れない言葉である。最近は、「緊急地震速報」と呼ぶ。ナウキャストというのは和製英語である。フォアキャスト(Forecast:予報)をもじって、ナウキャストと呼ぶ。地震発生後、揺れる前に、警報を出そうとするシステムである。

アイデアは古くから有る。基本的考え方は、明治維新の年1868年にクーパー氏によって紹介された震源での揺れを電信で伝えるというアイデアに遡る (1868年11月3日:San Francisco Daily Evening Bulletin)。わが国でも、伯野元彦博士などにより10秒前大地震警報システムが提案され、海底地震計で揺れをキャッチし都市に地震波が到達して揺 れ出す前に地震情報を提供するアイデアが示されていた。すでにメキシコでは実用されている。

これらは、地震発生直後に、震源に近い位置で揺れを検知し、震源から離れた都市に地震波が到達する前に地震発生情報を提供するものである。地震 動の主要動であるS波は3?4km/sの速度で、初期微動に当たるP波は6~7km/s程度の速度で伝播する。従って震源に近い地点に地震計を設置すれ ば、都市との距離分の時間を稼ぐ(①=距離÷3?4km/s)ことができる。P波とS波の到達時刻の差を利用すれば、予測地点に設置した地震計で検知した P波初動によりシステムを起動することにより、②=距離÷6?7km/s程度の時間を稼ぐことができる。新幹線の自動停止システムとして利用されているユ レダスシステムは、この方法を利用している。

気象庁が開発を進めている緊急地震速報は、図に示すように、①と②を組み合わせたシステムである。震源の近くに設置した地震計によりP波初動を 検知し、都市に主要動が到達する前に情報を提供しようとするものである。現在は123台のナウキャスト地震計が全国に配備されている。緊急地震速報では、 地震発生後、最初にどこか1点で揺れ(P波)を検知した段階で、震源位置と地震規模を簡易的に推定し、これに基づいて、各地での主要動到達時刻や揺れの強 さを予測する。その後、揺れを観測した地震計の数が増えるに従って、推定精度が上がっていく。このため、時間と精度がトレードオフの関係にある。

緊急地震速報を有益なものにするためには、3つの課題を克服する必要がある。①震源の位置・地震規模・揺れの予測技術、②情報を速やかにかつ確 実に送信する情報通信技術、③情報を受け取ったユーザーの利活用技術、の3つである。気象庁は、①②の課題を有る程度克服した上で、平成16年2月25日 より緊急地震速報を試験的な提供等を実施し、実用化に当たってのさまざまな課題を検討してきた。その結果、一部の事業者については③の課題も有る程度克服 できる見通しを得つつあるようである。そこで、今後、1年程度の間に、

① 緊急地震速報の特徴、限界、利活用方策を理解した者(特定利用者)への提供に関する事項
② 一般利用者に対する緊急地震速報の適切な提供方法
③ 一般利用者が緊急地震速報を利用するにあたっての「心得」
④ 緊急地震速報認知度向上のための普及・啓発の方策等

の問題を検討した上で、段階的に、緊急地震速報の本運用を開始しようとしている。緊急地震速報が運用されるようになると、様々な活用が期待できる。建物の 耐震化を推進することが本来の姿ではあるが、耐震化には時間がかかる。次善の策として、揺れる前に少しでも時間を確保することにより、被害を軽減すること が可能な緊急地震速報は、極めて有用なツールである。ただし、緊急地震速報が有っても、壊れるものは壊れるということを忘れないでいたい。