平成16年度の国・県・市の防災施策(05/5)

2005年5月

皆さん、ゴールデンウィークはどう過ごされましたか? 我が家は、ゴールデンウィークに、家具の固定を専門の方にお願いし、一部残っていた棚のフィルム貼りも女房がやり終え、それまでのいい加減な突っ張り棒生活から備えのレベルが一歩前進しました。

さて、年度末から、大きな災害が続いています。3月20日には、福岡県西方沖でマグニチュード7.0の地震が発生、さらに3月29日にはスマトラで再び マグニチュード8.7の巨大地震、ゴールデンウィーク直前の4月25日のJR西日本福知山線の事故では107人もの方が犠牲になりました。いずれの災害で も、「まさか」、と言う声が常に聞こえてきます。そして、思いもかけぬミスや油断が大災害を招いています。災害はいつも予期せずおき、そして私たちの弱点 をついてきます。昨年には、度重なる豪雨と台風、紀伊半島沖での地震や新潟県中越地震、スマトラ沖地震と、大変な数の災害に見舞われました。幸いにも、愛 知県下では大きな災害を経験せずにすみました。他地域の災害を教訓として、ここから多くを学び、少しでも、有効な備えをしておきたいと思います。備えの一 翼は、行政が中心となった防災施策が担います。今回は、昨年度に実施された行政施策を、小生の分かる範囲で紹介することにします。

昨年度は、様々な災害の××周年事業が実施されました。兵庫県南部地震10周年を記念した国連防災世界会議を始め、安政地震150周年、東南海 地震・三河地震60周年、液状化の被害の大きかった新潟地震の40周年、など目白押しです。××周年と言うことは、既にこれらの災害から相当の年月が経っ たということで、次の地震への備えが、必要ということでもあります。

さて、内閣府が所管する中央防災会議では、昨年末に、首都直下地震の被害予測結果を公表しました。その被害規模は、東海・東南海・南海地震と同等以上の極 めて深刻なものでした。これら全体の被害金額は、最悪300兆円にものぼり、我が国の国民総生産の6割にも及びます。首都直下地震の被害の公表をきっかけ に、首都圏でも防災意識が随分向上したようです。特に企業では、BCPとかBCMとか呼ぶ企業活動の継続性の議論が多くなされるようになりました。

また、3月30日の中央防災会議では、東海地震と、東南海・南海地震に対しての地震防災戦略が示されました。行政には珍しい数値目標を明確にし たもので、今後10年間の間に、地震被害を半減しようとするものです。その中心課題は言うまでも無く家屋の耐震化です。今後、この地震防災戦略を受けて、 自治体を中心に、耐震化に関わる施策が急ピッチで進むと思います。

文部科学省が所管する地震調査研究推進本部からは、3月末に地震動予測地図が公表されました。これは、特定の地震に対して揺れを予測したシナリオ型の予測 地図と、不特定の地震も含め確率論的に将来の揺れの発生確率を示した確率論的な予測地図から構成されています。今までも、中央防災会議や各自治体が、特定 の地震に対して個別にハザードマップを作ることは多く行われてきましたが、全国を対象に、統一的な方法で地震動の予測地図が作られたのははじめてのことで す。この地図では、場所による地震危険度の差が一目瞭然です。

気象庁では、揺れる前に地震の発生を知らせてくれる緊急地震情報(旧称・ナウキャスト地震情報)の実用化に向け、様々な機関で試行的な利用が始 まっています。千万戸を超える住宅の耐震化を早期に終えることが困難なため、短期的には人的被害を軽減する決め手になります。揺れる前のほんの少しの時間 の活用のあり方、訓練などが課題になります。

愛知県では、県庁本庁舎の耐震改修が決まりました。本格的な免震改修になります。基本設計が終わったところで、これから実施設計、年度内には着工、4年後を目処に、揺れない本庁舎に生まれ変わる予定です。

また、名古屋市や岡崎市を始めとして50mメッシュの高解像度ハザードマップが作られつつあります。名古屋市では、家の輪郭までが分かる解像度 で、地震マップが区別に作られ、各戸配布されました。予測された結果の精度については、今後とも、継続的に改善が必要だと思いますが、我が家の揺れを実感 できるマップであり、各地域でワークショップに活用するには、とても便利です。岡崎市でも内閣府によって50mハザードマップが作られています。

名古屋大学周辺での動きは次のようなものです。愛知県・名古屋市と一緒に、文部科学省の防災研究成果普及事業に応募し、「行政・住民のための地 震ハザード受容最適化モデル創出事業」が採択されました。3年間に渉って、住民の方々の防災行動を誘導する地震ハザード情報の示し方を探求する予定です。 大学の有する研究成果を少しでも役立てて頂けるよう、努力していく予定です。また、文部科学省の地域貢献特別事業の一環として愛知県・名古屋市と共同して 進めていた「中京圏地震防災ホームドクター計画」の3年の成果を皆さんに問うために、3月26日に「まちとひとを守るためにいま何をすべきか」という集会 を開き、防災リーダーの方々にも数多く参加頂き、貴重な意見を頂きました。また、私どもが中心になって作っている啓発教材「ぶるる」もさらに強化されまし た。「紙ぶるる」、「木造倒壊ぶるる」、長周期の揺れを再現する「自走ぶるる」を作り、「模型実験で学ぶ木造住宅の耐震化対策のポイント」とう啓発ビデオ も作ってみました。近々、レスキューストックヤードさんから発売予定です。近々、2階建て木造ぶるる、家具転倒ぶるる、も加わります。最近のシリーズ http://www.sharaku.nuac.nagoya-u.ac.jp/laboFT/bururu/index.htmをご覧下さい。

土木学会と建築学会は、今後想定される巨大地震への備えのために、本格的な研究に着手しました。特に、これらの地震で懸念される長周期地震動に ついて検討が行われています。その中では、昨年度、国土交通省中部地方整備局が中心になって策定した名古屋市の三の丸地区で想定地震動が使われたりしてい ます。この地震動は、昨年9月5日に経験したあの長い揺れを思い出させるものです。ただし、揺れはずっと強烈です。

新年度には、防災局を中心に、震災後の復旧に着目した検討が始まるようです。生活や企業活動の早期復旧をするためのマニュアル作りです。また、 建設部を中心として、NPOと建築家が協働した防災まち作り事業も始まるようです。この中には、まち作りコンペも企画されているようです。防災リーダーの 方々も、地域の方々と協力して応募されると良いと思います。

また、愛知県下の3国立大学(名古屋大学、名古屋工業大学、豊橋技術科学大学)の建築構造研究者が、愛知県、名古屋市、及び県下の自治体、建築 関係団体と協力して、文部科学省の教育研究特別経費に応募し、「耐震実験施設の効率的運用による東海地域の地震災害軽減連携融合事業」を本年4月から3カ 年に渉って実施することが採択されました。この事業を進めるために、5月23日に「あいち建築地震災害軽減研究協議会」を設立しました。この事業では、安 価な耐震改修法を3大学の研究者が地元自治体、技術者と一致協力して開発し、早期の耐震化実現を図ろうとしています。

さて、このように、私たち周辺でも様々な施策が展開されつつあります。ただ、残念ながら折角の施策も、旨く継続させることはなかなか大変です。 例えば、愛知県が他地域に先駆けて実施した「親子参加型地震防災教育」は、残念ながら昨年度で終了してしまいました。「あいち防災カレッジ」や「木造建物 の耐震診断・耐震改修への補助事業」の将来の継続も心配されるところです。こういったものが長い間継続されていくことは、とても大事です。そのためには、 この施策の有効性を証明したり、皆で、施策の継続の必要性を訴えていくことが望まれます。あいち防災リーダーの会の方々の力が頼りかも知れません。