過去の教訓を学んでいるか(04/11)

2004年11月

津波常襲地帯での最悪シナリオ

地震に備えるには、そのとき、何が起こるかの想像力が大事になる。少し悲観的な想像をしてみよう。紀伊半島のあるまちを頭に描いて想像してみたい。この まちの近くには、60年前の東南海地震の時、9mの津波が襲った。150年前の安政東海地震の時の津波はもっと高かったと言う。そこに再び耐震性の不十分 な木造家屋が密集して作ってしまった。当時は、まちの中央に小高い丘が有ったそうだ。しかし、これを削り取って、海を埋め立て、火力発電所を建設した。隣 には石油タンク群を作った。まちの若者が働ける場所を作るためだったという。しかし、電力自由化の嵐の中で、操業が危ぶまれているようだ。最悪のシナリオ を考えると怖い。ドラマ仕立てで、その時を想像してみよう。真冬の夜だとする。主人公は2階で寝ている発電所に勤める独身の貴方である。

深い眠りの中、強い縦揺れを感じ、目を覚ます。10秒位で強烈な横揺れが襲う。家具が倒れ、もの凄い音がする。揺れはなかなか収まらない。途中、宙に浮 いた気がした。死の恐怖を覚える。揺れが終わると急に静かになる。真っ暗闇の中の静寂だ。運良く、家具の下敷きにならず、けがも無いようだ。直ぐに逃げな ければ、津波が襲ってくる。寝間着のまま、布団から飛び出す。突然、足に痛みが走る。何かを踏んでしまった。我慢するしかない。部屋のドアを開けようとす るが、家がひずんでいて開かない。やむを得ず、何とか窓を開ける。どうも変だ。道路が直ぐそこにある。1階がつぶれている。恐る恐る、窓から道路に飛び降 りる。階下でうめき声がする。祖父母だ。真っ暗闇で良く分からない。「大丈夫か」と大声で呼びかける。すると、両親が「大丈夫だ」と答える。次いで、「俺 たちが助けるからおまえは早く逃げろ。津波が来る。先に行け。」と叫んだ。やむを得ず、家が密集した狭い道を、高台に走った。裸足なので、足が痛い。左右 の家からうめき声が聞こえる。でも振り切るしかない。突然、道がふさがってしまった。家が倒壊している。これでは通れない。まるで迷路だ。歩き慣れた道な のに、焦る。ゴーッと言う音が後ろからする。とにかく必死で急いだ。何とか高台に上った。周辺にはゼイゼイ言っている人たちが沢山居る。後ろを見ると、 所々、火が付いている。その明かりで、家が沢山倒れているのが見える。ちょうどその時、もの凄い音と共に火が消えた。津波だ! 第1波がやってきた。消防 団の友達はどうしているだろう。こんな状況で、あんなに沢山の水門を閉めている余裕なんてなかっただろう。目の前の街は津波に翻弄されている。急に寒さを 感じ始めた。

海を埋め立てた発電所では、煙突が揺れ続けている。あちこちで泥水が噴き出し、地面が底なし沼のようになっている。液状化だ! 発電所も非常停止した。 脇にある石油タンクでは、中の油が大きく動揺している。スロッシングがおこっている。タンクから火の手が上がった。とても消せない。別のタンクでは油が漏 れているようだ。そこに津波が襲来した。津波が漏れ出た油を街に運んでいる。燃えている家で油に引火してしまった。まずい。街中に火が広がった。もの凄い 煙だ。息ができない。山に登るしか無い。夜が明けた。山から見下ろした街は悲惨だ。揺れで壊れた建物。津波で打ち上げられた船とゴミの山。津波を免れた高 台の家は黒こげ。もの凄い臭いだ。もう、何も残っていない。両親、祖父母もどうなったか分からない。逃げろと言われたのが最後の言葉だ。

山の中で、野宿しながら、谷川で水を飲み、山菜を採り、薪をしながら、皆で救援を待つ。しかし、救援が来ない。この街に通じるのは、国道42号線一本。 この道は、山間を通っている。土砂崩れを起こしていたら通れない。海も、ゴミだらけで船は接岸できそうもない。助けは来てくれるだろうか。隣の漁港町はど うなっただろう。

余り想像したくないことである。しかし、あり得ないと切り捨てることができない話のように思う。家族を失い、家を失い、勤め先も失うかもしれない。同様 の地域は太平洋沿岸の各所に残っているのではないだろうか。今一度、六十年前の出来事を思い出し、その時のために、何を備えれば良いか考えてみたい。