家屋の地震被害

 我が国の建物は、建築基準法に則って耐震設計が行われている。建築基準法は地震被害を経験しながら改善され、現在に至っている。建築基準法が大きく改訂 されたのは、1971年と1981年である。我が国の法律は不遡及の原理に基づいているため、30年前に設計・建設された家屋は30年前の法律を満たして いれば法的には問題が無く、現行の耐震基準が遡及して適用されることは無い。このため、現行の耐震基準を満足しない既存不適格建物が大量に存在しており、 現状、全国に1400万軒の建物の耐震性に問題が残っているようである。

 一例として、図1に、 中央防災会議が被害予測に用いた、揺れの強さと木造家屋の全壊率との間の関係を示す。図のように、1981年の前後で家屋の耐震性に明確な差があることが 分かる。現行の耐震基準はある種の最低基準であり、震度6弱相当の揺れに対して人命を守ることを定めている。しかし、実際に経っている建物にはある程度の 余力も有るため、震度6強程度でも1割程度の全壊率に留まっている。

 写真1は 阪神淡路大震災における木造家屋の典型的な被害写真である。大きな被害を受けた理由としては、①古い耐震基準による耐震性能の低さ(耐震部材の不足)に加 え、②家屋の老朽化による腐朽や蟻害による耐震性能の低下、③重い屋根、④上下階の壁量バランスの悪さ、⑤平面的な壁の配置の悪さ、⑥柱・梁接合部などの 接合金物の不足、⑦基礎の剛性・強度不足、⑧揺れの強さ、などが考えられる。真ん中の写真の右側の建物の被害が大きい理由が分かるだろうか。

 図2に 示すように、建物に作用する力は建物質量と揺れの強さの積(f=mα、f:慣性力、m:質量、α:加速度)であり、揺れの強い地盤上の重い屋根の建物では 柱・壁に大きな力が作用する。このため、重い建物で、柱・壁などの耐震部材が不足すると被害が増大する。さらに、1~2階の壁量の差が大きいと、壁が少な くて変形しやすい1階に変形が集中する。1階の耐力が不足したり、柱と梁の接合部がしっかりしていないと、1階全体が崩落する。平面的にも壁が偏った位置 にあると、堅さの中心が偏るため、建物全体が捩れやすくなり、崩落しやすくなる。

 2003年十勝沖地震では、地震規模に比べて家屋被害が少なかった。幾つかの理由が有りそうであ る。家屋そのものが少ないのに加え、戦後だけでも、1952年と1968年の十勝沖地震、1993年釧路沖地震と強い揺れに何度も見舞われており、耐震性 の無い家屋は、すでに過去の地震で淘汰されている。そもそも、北海道の建物と本州の建物とでは建物が全く異なる。

  北海道では、降雪などに備え、軽量の屋根が用いられる。また、寒冷地のために、窓が少なく、壁が多い。さらに、土が凍結するために基礎を深くにまで設け る。ちょうど、本州の建物が足腰の弱った小太りの中年男性とすれば、北海道の建物は、足腰を鍛えたすらっとした若者の風情である。両者の耐震性の差は大き い。自分の昔を思い出すと良く分かる。バスに乗って、つり革につかまっている時を想像してみよう。若いときには多少のブレーキでもヘッチャラだったのが、 お腹が出て足腰が弱るに従って直ぐによろけるようになる。建物もこれと同じである。

  建物の弱点を調べ、建物の健康診断をするのが、耐震診断である。全国の多くの自治体では、1981年以前の木造家屋に対して、無料耐震診断や、耐震診断の 補助事業を行っている。また、自分でも簡単に診断ができる方法も用意されている。静岡県では分かりやすいホームページ(耐震ナビ)を準備しているので、一 度、http://www.taishinnavi.pref.shizuoka.jp/を見てみると良い。耐震診断補助についての詳細は、最寄りの市役所に問い合わせると親切に答えてくれるはずである。

  耐震診断で建物の弱点が分かったら、次は、治療である。これを耐震改修と言う。今は、一般に木造家屋の改修には150万円から200万円程度かかるようで ある。基本は、中年太りを直すことと、足腰をしっかりさせることである。すなわち家を軽くすることと、壁を増やし基礎をしっかりすることである。また、体 のバランスを良くすること、すなわち、1階と2階の壁量のバランス、建物平面の中の壁配置のバランスを良くすることである。これも静岡県の耐震ナビを見る と良い。静岡では、直ぐに家を直せない人たちのために、家が倒壊してもつぶれない防災ベッドも開発されている(http://www.e-quakes.pref.shizuoka.jp/data/pref/toukai-0/index-b.html)。介護が必要な人にとっては必須アイテムかもしれない。

図1 http://www.bousai.go.jp