南海トラフでの地震3兄弟の驚くべき被害量

 私たちは、90年~150年程度の間隔で、南海 トラフでの巨大地震に見舞われている。南海トラフには、東から東海地震(以前は駿河湾地震と呼ばれていた)、東南海地震(以前は現在の東海地震と東南海地 震とを合わせて東海地震と呼んでいた)、南海地震の3つの震源域がある。この地震3兄弟は気まぐれで、ある時は3兄弟が一緒に騒ぎ、ある時はバラバラに地 震を起こす。現在、すでに、前々回の安政の地震から150年、前回の昭和の東南海地震から60年が経っている。特に、駿河湾域では150年分の歪みが蓄積 されているため、東海地震は明日起きてもおかしくないと言われ、今後30年の地震発生確率も84%と評価されている。お隣の東南海・南海地震の震源域では 50%とか40%とされている。いずれにせよ、今世紀前半に3兄弟が大騒ぎをすることは間違いない。

中央防災会議では、これらの地震の被害予測を行い、その結果を公表している。その被害ボリュームを阪神・淡路大震災と比較すると表のようになる。

 

死者数

建物全壊棟数

被害額

阪神・淡路大震災

約6,400人

約105千棟

10兆円

東海地震

約9,200人

約460千棟

26-37兆円

東南海・南海地震

約17,800人

約629千棟

38-57兆円

東海・東南海・南海地震

約24,700人

約940千棟

53-81兆円

 お おざっぱに言えば、3地震の被害を合算すると、兵庫県南部地震による被害に比べ、最悪、死者は4~5倍、建物被害と経済被害は10倍である。ちなみに、我 が国の平成16年度の歳出予算は82.1兆円、税収は41.7兆円、一般歳出は47.6兆円であり、我が国の税収の2年分の被害を今世紀前半に覚悟する必 要がある。地震対策が我が国の安全保障上の最重要課題であることが理解できる。被害の主たる原因は、耐震性の劣る既存不適格建物の存在にある。我が国で は、不遡及の原理により、現行の耐震基準は古い家屋には適用されないため、耐震性に問題の残る家屋は全国に1400万軒も存在する。これらの建物の耐震化 が我が国の将来を左右する。

 駿河湾域を震源とする東海地震は、1978年に施行された大規模地震対策特別措置法により位置づけられており、直前予知を前提とした警戒宣言時の対応方 策が定められている。この対象地域として指定されているのが地震防災対策強化地域であり、2002年4月に現状の地域が拡大指定された(図1)。 東南海地震と南海地震については、震源域が海域となるため、早期検知のための観測網の整備が困難であり、備え(防災対策)を中心とした対応となる。両地震 に対して防災対策を推進するために、2002年7月に東南海地震・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法が公布され、2003年12月に東 南海・南海地震防災対策推進地域が指定された(図2)。 強化地域と推進地域には、4000万人が居住し、1000万軒の家屋が存在する。陸上自衛隊、常備消防の人数は何れも15万人、人的な不足は明らかであ る。我が国の国民の三分の一が被災する巨大災害である。国民全員が、自衛隊員や消防士の救命・救急・消火技術を学び、自らの命を自ら守ると共に、地域の中 で互いに助けあえるよう、自助・共助の精神を身につける必要がある。これが地震防災に対する地域力となる。

 万一、3地震が連動して発生すれば、兵庫県南部地震のような局所的な被害とは全く異なり、関東地域から九州に至る広域が同時に被災する。このような広域の被害に対しては、各県での対応では限界があり広域の連携が不可欠となる。こ のような広域の災害に対して重要となるのは情報の的確な伝達である。現在、気象庁を中心に、震源近くの地震計で揺れの情報を早期に見知し、震源から離れた 地域に揺れが到達する前に地震発生の情報を伝達する「ナウキャスト地震情報システム」が実用化されつつあり、緊急地震情報が提供される環境が整いつつあ る。また、災害直後に被害状況を即座に把握することは、初動体制の確立のために極めて重要となる。兵庫県南部地震以降、各所で災害情報システムが作られ、 災害対応の強力な武器となりつつある。

図1 www.shobo.city.nagoya.jp
図2 www.asahi.com