巨大地震の前後には内陸でも直下地震が多発、犯人は活断層

 西日本では、南海トラフの巨大地震の前後に内陸での地震が多発する。図1は、 南海トラフでの巨大地震発生前後数十年間とそれ以外の時期に、西日本で発生した地震の震源の分布である。図のように、地震の発生にはムラがあり活動期と静 穏期がある。地震は、起きるときには集中して発生し、そのあと長く休憩する。幸運なことに、1948年福井地震以降、1995年兵庫県南部地震まで、私た ちの国は、地震の静穏期の中、高度成長を果たしたことになる。しかし、兵庫県南部地震は、次の活動期の始まりのようである。平均すると、内陸では10年に 1つ程度マグニチュード7クラスの地震が発生している。発生個数で言えば、プレート境界で発生する巨大地震よりも数が多い。この半世紀、静穏期だったと言 うことは、これからは5年に1個というペースで発生すると言っても良いかも知れない。現に、1995年兵庫県南部地震の5年後、2000年に鳥取県西部地 震が起こった。

 図2に、明治以降に発生した震度7の揺れを伴った地震の震源を示すが、関東地震を除くと何れも内陸に存在する活断層による地震である。各地震の震度分布を図3に 示すが、いずれの地震においても、震度7の地域の広さは、兵庫県南部地震に比べて大きく、兵庫県南部地震の揺れが特別なものではないことが分る。活断層に よる地震の怖さは、震源域がごく近傍にあるため、局所的に極めて強い揺れになることである。震源域が海にある巨大地震と比べ、揺れの強い地域は狭いが、そ の強さは巨大地震の揺れより大きい。我が国の耐震基準は、関東地震のときの東京の揺れを念頭に置いた最低基準であり、震度7の揺れに対して生命の安全を保 証するものではない。このため、活断層による地震が発生した場合には、我々の災害対応能力を上回る強烈な被害となる恐れがある。

 図3の中でも桁違いに大きな地震が濃尾地震(1891年10月28日、マグニチュード8.0)である。この地震は、内陸で発生した過去最大の地震である。不思議なことに、陸と海での過去最大の地震(濃尾地震と宝永地震)とが同じ10月28日に発生した。図4は、 濃尾地震の震源地、根尾村美鳥の断層観察館で見ることができる断層の縦ずれである。鋭利な刃物ですぱっと切ったように断層がずれている。この場所の上下の ずれは6mである。水平には最大9mずれている所があるようだ。この断層上に建物が有ったらどうなるか想像をして頂きたい。ちなみに、米国カリフォルニア では、活断層法とも言える地震断層ゾーニング法を作り、活断層から15m以内には建物を作らないこと、400m以内を地震断層ゾーンとして周知することな どを定めている。

 さて、内陸での地震を起こす活断層はどこにあるのだろうか。図5に、 日本国内の活断層分布を示す。一目見て、活断層が日本アルプスから近畿にかけて集中していることが分る。この地域は、東からやってくる太平洋プレートと南 東から来たフィリピン海プレートによって屈曲させられた場所であり、日本列島で一番歪みが蓄積されている。日本アルプスの山々は、活断層による地震が作っ てくれたとも言える。名古屋から大阪にかけての地域は活断層が集中する近畿三角地帯とも呼ばれ、濃尾平野、大阪平野、京都・奈良の盆地形成と深い関わりが ある(図6)。

 活断層とは、「最近の地質時代にくりかえし活動していて、将来また活動すると考えられる断層」とされており、最近の地質時代として、第四紀後期(12万年前)を指す場合が多いようである。活断層は、航空写真などから地形のずれ(図7参照)を観察して推定される。

 最近では、主要な活断層についてはトレンチを掘って断層のズレを直接確認し、過去の地震発生の時期を推定したり、断層の活動度を評価したりしている。政府の地震調査委員会では、これらの結果をもとに、各断層の地震発生の長期評価を行い、図8のように公開している。図から、糸魚川-静岡構造線断層帯、琵琶湖西岸断層帯、三浦半島断層帯、富士川河口断層帯など、兵庫県南部地震発生時の地震発生確率を超える断層帯が存在することが分る。これらの地域では、震度7の揺れをも想定した防災対策が望まれる。

図1 尾池、サイスモ2001
図2&3 武村、サイスモ200
図4 http://www.jishin.go.jp/main/mech/eqmechfrm
図5&7&8 http://www.hp1039.jishin.go.jp/eqchr/eqchrfrm.htm
図6 http://unit.aist.go.jp/actfault/team/yoshioka/hyouka.html