都会生活、そのとき何が起こるか、想像してみよう

 兵庫県南部地震は、三連休の翌日の冬の夜明け前 に、大都市神戸を襲った。神戸には百五十万人の人が暮らしていた。殆どの人は、家族揃って家に居て、就寝中だった。お亡くなりになった方の殆どは自宅で被 災した。特に、古い木造家屋の一階が倒壊して亡くなった方が目立つ。5年後に起きた鳥取県西部地震は、地震規模は兵庫県南部地震とほぼ同じ。しかし、被害 はずっと少なかった。震源地の地盤が良く、過疎地であったこと、雪国の家屋の耐震性の高さなどハード的な環境条件の違いもあったかもしれないが、地震発生 が秋の平日午後であったことも関係が有りそうである。

 兵庫県南部地震の発生時刻が通勤・通学ラッシュ時間帯であったらどうだろう。昼の勤務・就学時間だったら、昼・夕の炊事どきだったら、休日の昼間だったら、季節が夏だったら、どうなるだろう。こんな想像力が、防災対策を考える際に役に立つ。

 満員電車の中にいるときは、寝ているときと同様、 人間が最も無防備な時である。万一、列車が脱線転覆したら、多くの人が人の下敷きになり圧死するだろう。起きあがろうにも身動きが取れない。十両編成の満 員電車に一体何人が乗っているだろう。千人を超える大量のけが人が、あちこちの鉄道会社で続出したときに、現状の救急体制では全く対応できない。消防士は 人口千人に対して一人しかいない。消防士は六十万都市で600人、この人数で火事は一日に平均一件、救急の出動回数は六十回程度である。「その時」は、消 防も無力である。周辺の人間が互いに助け合うしか無い。

 もしも、地下鉄の中にいたらどうなるだろう。阪神 淡路大震災の時の大開駅のように、ホームに居て駅が圧壊しそうになり、万一、非常電源が機能障害を起こしたらどんな恐怖感を覚えるだろう。また、満員の地 下鉄車両の中に居たらどのように避難するのだろうか。車両の最前部若しくは最後部の運転席のドアから逃げることを知っている人はどの位いるのだろうか。

 昼間だったらどうだろう。オフィス・学校などでは コンピュータが飛び回り、棚が転倒するだろう。万一、神戸市役所のようにビルのどこかの階が崩落したらどうなるだろう。そのフロアに居る人間をどうやって 助けるのだろうか。また、ある階が潰れてしまったら、その階の階段も使えなくなる。どうやって避難するのだろうか。神戸でも多くのビルで1階が崩落した。 出口は、1階にしか無い。思っても見ないことが次々と起こる。それが地震災害の特徴である。
建設現場の高所作業や工場内での危険作業をしている最中だったらどうなるだろう。高所作業中にとっさに命綱をつけることができるだろうか。仮設の足場は大 丈夫だろうか。工場内ではキャスター上の部品ラックが走り回らないだろうか。プレス機械の作業中だったらどうなるだろう。

 昼間なら、高速道路には車両も多く、満員の客を乗 せた新幹線も多数走っている。高架の高速道路からどのようにして地上に降りることができるか知っている人はどの位いるだろうか。万一、新幹線の橋脚が損壊 し、時速250kmで新幹線が突っ込んだら、と想像したことがあるだろうか。その時に、地元自治体は何ができるだろうか。地元消防は、地元の住民を救出す るのを優先するのだろうか、新幹線の乗客1500人や新幹線によって損壊した周辺家屋の住民を救出する力は無いだろう。自衛隊に頼るしか無い。こんなこと を避けるために、新幹線の緊急停止システム「ユレダス」が開発された。地震波の初動を検知し、これから、震源位置、地震規模、揺れの強さを即時に推定し、 新幹線を自動停止させるシステムである。同種のシステムが気象庁や防災科学技術研究所でも開発中である。震源近くで揺れを検知し、震源から離れた場所で揺 れる前に緊急地震情報を伝達しようとするものであり、ナウキャスト地震情報システムとかリアルタイム地震情報システムと呼ばれている。直前予知が困難な現 状の中、人命を救う新たな武器となる。

 夏だったとすると、上水道や下水管が損傷する中、衛生状態は大丈夫だろうか。火葬することも、棺に入れることもできない遺体が腐乱したらどうなるだろう。こんなことが容易に想像できる。

 神戸での被害経験を元に、これからの地震について様々な想像をしてほしい。そうすれば、何をすれば良いかが分かる。これが、地震被害の軽減のための早道だ。