建築振動問題を建築空間の安全性・機能性の両面から追究

社会環境工学科・飛田 潤 (1998.6)

主な研究と特長

 建築物および地盤の振動に関する種々の問題について、精密な実測データに基づく実挙動の把握を基本方針として、建築物の設計や性能評価に有用な知見を整理・蓄積して行くことを目標としている。

 対象としている建築物・地盤の振動問題には、大別して建築空間の安全性に関わる地震応答や強風時応答と、内包する精密機器の性能や居住者の快適性など建築空間の機能性に関わる建築環境振動の2面がある。前者が非常時・自然現象・大レベルであるのに対して、後者は常時・人為現象・微小レベルの振動現象といった相違はあるものの、発生源・伝播経路・結果としての建物振動といった全体システムは共通性が高く、これらを統一的に研究対象としている。具体的内容は以下の通りである。

(1) 建築物の振動特性・耐震性の評価

 建築構造物の振動挙動は、地盤との動的相互作用、二次的構造部材、材料のばらつきなど複雑な要因の影響を受けており、解析手法の著しい発達を見た現在にあっても十分な地震応答予測は容易でない。そのため、多数の構造物の地震応答および常時微動などの詳細な振動実測に基づいて、個々の構造物の特徴や建物群の平均的挙動を明らかにする研究を長期にわたって行ってきた。その過程で、構造物の地震応答における立体振動や特性変動の同定方法、常時微動記録の特徴に基づく利用方法、多点多成分同時記録の波形解析法など一連の手法の開発を行っている。

 特に中低層建物は振動挙動が複雑であるにもかかわらず詳細な実測例は多くないため、最近はこれらを主に検討しており、動的相互作用や立体振動など設計に影響する諸点の抽出を目指している。また振動特性と耐震診断指標との関係を通じて既存建物の耐震性能評価も検討している。

(2) 建設工事や交通による環境振動、精密機器の振動障害

 環境振動問題は、以前は人間の居住性・快適性が主な検討対象であったが、近年は精密機器の機能障害も深刻になっている。都市開発に伴う生活圏拡大や大規模建設工事により環境振動の静穏な立地を求めることは非常に困難となり、一方で人間以上に敏感な精密機器が著しく増加し、機能保持のための要求レベルも高度化したため、問題の生じる可能性は非常に高い。名古屋大学東山キャンパスはその好例であり、最先端の嫌振動精密機器が密集する周辺で地下鉄と高速道路トンネルの工事が行われ、工事車両の交通振動も問題となっている。

 このような環境振動問題に対処するため、超精密機器を含むキャンパス全体を対象とした環境振動モニタリングシステムを整備・運用している。さらに各種の特徴的な工事に対しては臨時集中観測を随時行い、また対象となる精密機器の障害発生特性を知るための限界性能試験も実施している。その結果、環境振動問題を振動発生源・伝播・障害発生の各ステージに切り分けて整理しつつあり、今後の同種の工事における振動予測のためのデータベースになり得るものと思う。これらの検討により現状では建設工事と研究の調整による両立や低振動工法の選択を達成している。

(3) 地震による建物被害と地盤条件の関連

 近年の大地震において、あらためて地盤条件による地震動や地震被害の相違が注目されている。地震動増幅特性に関しては、地震動や常時微動の記録および地盤情報に基づき、非線形性、液状化、不整形性などを考慮した地盤の地震動特性推定を検討しており、釧路や八戸の実例で成果を得ている。また地形、特に人工的な地形改変(宅地造成など)と建物被害との関連を検討しており、地理情報システム(GIS)の利用により将来の被害予測に結びつける試みを行っている。

今後の展望

 上記の主要な3点を中心に今後も実測を基礎とした検討を重ねて行くことになろう。これにより今後の建物や工事に関する設計・施工のための資料整備を行うと同時に、現状の地盤・建物・建物群の性能評価から都市環境や防災への活用を目指したい。振動計測機材や計算機環境の発達により非常に多数の記録の処理・蓄積が行われる現在、それを整理活用する実用的方法論(またはシステム)の提案が不可欠であろう。