名大祭'99 オープンラボ

都市と建築物の安全・安心を支える技術

建築学専攻・構造設計工学講座
1999年6月12日、13日

公開の概要

 当講座では、いくつかのテーマの一つとして、地震・振動分野における都市環境と建築物の安全性、快適性について多面的・総合的に取り組んでいる。

 都市と建築物の安全については地震防災問題を扱っている。兵庫県南部地震以降の防災分野における技術の進歩と社会の動きはかつてないほど急であり、個々の要素技術のハード探求とともに、それを社会システムの中で生かせるようなソフトの枠組みの提供も同時に要求されている。都市と建築の安心(快適性・機能性)については、特に環境振動の問題を扱っている。都市部の交通、工場、工事などによる振動が人間の快適性を損なうばかりでなく、さらに超精密機器の機能に重大な影響を及ぼす例が増えており、東山キャンパスはその好例である。

 今回の公開では特に、建築物や地盤の振動実験・実測および分析技術と、都市の防災に関する統合システム開発技術について、具体的なデモや展示により見学者に実感していただくことをねらいとした。なお、一部は先端技術共同研究センター環境・生命工学分野および名古屋大学振動集中管理室の研究紹介も兼ねて行われた。

 

大地震の揺れを体験する・・・振動台による地震動の再現

 建築構造の振動実験に用いる振動台を使い、試験体のかわりに見学者に台上に乗ってもらい、阪神大震災級の大地震の揺れを経験してもらった。この振動台は最大2トンの試験体を1G以上の加速度で加振できるものである。

 あらかじめ揺れることがわかって身構えることができるため、実験そのものは特に怖いものではない。しかしアンケートに「これが家だったら、そして不意打ちだったらすごく怖いのだろうと思った。なかなか無い体験ができた」という感想があり、大地震時の心構えについてあらためて考えていただけたのではないかと思う。同時に小型加振機で小さな住宅模型を振動させ、どのように共振するかを実感してもらった。

 

振動をはかる・・・大地震の揺れから目に見えない微振動まで

 振動実験・実測の要はセンサーである。測る対象物、振動の周期や振幅などに応じて最適なセンサーを選択しなければならない。さらに、複雑な建物や広い都市域の振動を的確に理解するためには、多数の地点に同時に設置して一気に計測することが必要になる(多点同時計測)。そのために当講座では多種多様な振動センサーを多数保有しており、目的に応じて使い分けている。大地震の揺れを振り切れることなくはかる強震計から、人には全く感じられない1000分の1mm以下の微振動のための常時微動計、一抱えもある重量級の長周期計から小指の先ほどの圧電型ピックアップ、さらに非接触レーザー変位計まで、現物を一堂に並べて展示し、一部は動作デモを行った。

 地震計はいまや全国に数千台が設置されており、地震が起これば計測された値(震度)がすぐに報道され、万人の目に触れる。しかし実際の地震計を目にする機会はなかなか無い。見学者は「はじめて見た」といった反応で好評であったと思う。

 

出張振動計測・・・振動計測車の装備

 地盤、建物、そして都市を対象としている以上、いつでもどこでも駆けつけることができ、そこで常に安定した精度で計測できる技術が要求される。教官・学生ともに常日頃から実験技術の研鑽とノウハウの蓄積を怠らないことはもちろんであるが、一方でハード面から機動性の要となっているのが計測車(ランドクルーザー)である。今回は簡易で機動力に富んだ機材を計測車上に設定し、実際のフィールドでの計測状況を実験室前の駐車場で再現した。

 過去3年にわたり、名古屋市周辺をくまなく回って数百箇所におよぶ地盤の振動計測を行っており、また振動集中管理室と共同で東山キャンパスの至るところ地下鉄や名高速の工事による地盤・建物の振動をチェックしてきた実績がある。

 

あなたの住んでいる地域は安全?・・・地震被害想定システム、防災情報システム

 防災研究の一つの目標は、多種多様な情報を如何に有用な形に統合するかということである。地震・断層・地質・地盤といった自然の情報、建物の種別・面積・建築年・構造などハードの情報、人間・社会に関する情報などが複雑にからみあっている。これらの情報をデータベース化し、GIS(地理情報システム)技術、各種シミュレーション技術、ネットワーク技術および観測システムとのデータ交換実装技術などに基づいて、防災に有用ないくつかのシステムの構築を行っている。これらの開発成果は、名古屋市の防災システム整備にあたって基礎技術として取り入れられている。

 行政や研究者にとっては広い地域全体の状況把握が目標となるが、一般の見学者にとっての最大の関心事は、「自宅あるいは自分の行動範囲の付近は安全か?」ということであろう。コンピュータの簡単な操作によって、地図上に地点を指定し、地震時に予測される地盤の揺れ、地域の被害の様子、近所に存在する防災拠点の配置まで容易に調べることができる。このような情報がまとまって得られる場はなかなか無いのが現状であるが、きちんと整えて提供すれば受け取る側も(素人であっても)それなりの反応を示すであろうと感じられた。また防災技術は一般の人に理解していただくように説明できなければ、その効果が半減してしまう。今回の公開は説明の機会という意味でも重要であったと思う。なお当講座ではこうしたシステムのインターネットによる公開も試行しており、いつでも誰でも防災情報を参照できるシステムの開発をめざしている。

 

最先端の防災技術と取り組みを知ろう・・・行政・研究機関等の資料展示と説明

 兵庫県南部地震以降、防災技術は研究面からも行政施策の面からも高度化・多様化しつつある。行政でいえば横浜市や川崎市などをはじめとして大都市圏での整備が急ピッチで進められている。このような日本全国の様々な取り組みや、地元の名古屋市・愛知県の状況を知ることのできる資料を展示し、ビデオ上映を行った。

 

当日の様子

 10数名の院生および教官・技官が総出で2日間フルに公開を行ったが、工学部9号館という場所のためもあって見学者は必ずしも多くなかった(説明する側の人数のほうが多い?)。場所が見つけにくかったという声もあったので、案内等に工夫は必要であろう。しかし当日の反応やアンケートなどからも、わざわざ足を運んでいただいた方々には概ね好評で、内容やその意図がかなり伝わったのではないかと感じている。

 

 

 

 

 

 

 


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